CB92初期タンク『インタンクブリーザー』とその後

CB92にはその導入時、燃料補給のために5,6回転させねば開けられないレース仕様と思われるベークライト製ねじ込みタンクキャップが使われています。一般車用に180
ひねれば開閉できるバヨネットキャップも既に有りながらレース中の振動による緩みや転倒などに伴う車両火災に厳しく応対せねばならないその規定上の縛りが有ってのた
めかこれは使用されていません。

浅間で耐久レースと謂えどもその距離は125cc130kmほど同250ccクラスで150kmほど、クラブマンレースでそれぞれ40km50km弱です。途中燃料補給が必要になるほどの
長距離レースではなく、この点ねじ込みキャップに不利な点はありません。

 なおレース出場のための車検の際タンクキャップに貼られたテープは規定外の高性能燃料への入れ替え防止目的で注ぎ足し補給を防止するものではなかったようです。
貝印の石油会社がレースの協賛スポンサーでした。

 '57年のC80Z,C70Z辺りのレーサーから見られる八花弁型のベークライトキャップは倣う原型が欧州車などに有ったのでしょうか或いはホンダ社内の独自設計でしょうか?
フィラーネックもタンクの一部で柔らかいアルミ製です。スナップの強いバヨネットキャップはもとより使えませんし、ねじ込みでも所謂カジリを避けるためアルミ合金に
優しい素材である必要があり金属キャップでなく
M70ピッチ1.5メネジのキャップは素材にベークライトが選ばれたと当時を知る先輩から教わりました。

 '57年から’59年までのRCレーサーはそのキャップから、或いはタンク上面に設けた半球ピンポン玉状のドームから塩ビのブリーザーチューブが這わされます。
(画像:封印テープ、RC160参照)



しかし
'59年に発売のスーパースポーツCB92は市販レーサーでありますがまた町乗り一般使用目的のスポーツ車です。無粋なチューブをタンク上に這わすわけにはいきませ
ん。
タンク上面よりフィラーネックを1〜2cm沈み込ませて高さに差を設けその後ろ側タンク内面天井部から左底面にアルミパイプを装備、そこから出て車体フレーム内に
入りエンジンクランクケース後方まで透明塩ビのベントチューブを繋ぎます。
(画像:切開タンク,内部パイプ画像参照)


CB92ではRCレーサー違いその無粋なベントチューブは綺麗にプレスのストレススキンフレーム内に入れて実に気を遣った乗用車(?)となっています。
(画像CB95参照、パイプ、チューブ配置図参照)

 同時期に発売、限られた台数が市販されたとの250ccドリームCR71は浜松のベンリイと違い埼玉製作所の製品です。設計室も違ったのでしょうか?初期からその内部に宇宙
船のようなセパレーターが設けられベントの小孔の開いたベークキャップがブリーザーになっています。

フィラーネックもタンクのほぼ上面高さでタンク内アルミパイプ『インタンクブリーザー』はありません。
CB92のタンクはあまりに作りにくかったでしょう。或いは管路の長いブリーザーは通りが悪く燃料落ちの悪さが有ったかもしれません。CR71方式のキャップとセパレータ
ーが
'60年式のごく早くに導入されています。継続生産の殆ど無かったと言われるCR71のその部品でチェンジペダルのH型断面のワッシャーとここの部品はCB92の中にその
製品名を永らえています。

CR71型キャップ、セパレーターの導入でタンク内部から左下に取る盲腸のようなインタンクブリーザーは廃止されます。この新たなタンクの場合初期キャップとの組み合わ
せでは『ベント無し』になってしまうため「ベント付き
CR71キャップ、セパレーターとの組み合わせで」と脚注で使用制限が付きます。

 タンクはCR71式キャップ導入前に一度設計変更(以後:設変)が有り足掛け6年、実質5年の生産期間でCB92市販車用として都合5種類のフューエルタンクが確認できます。


 CB923901  (17500-205-000)     試作段階・市販車へ導入無し

’59910001(年式・フレーム番号)
CB923901A (17500-205-010) 初期デカールマーク、インタンクブリーザー

‘59910217(年式・フレーム番号)〜
CB923901B (17500-205-020) タンクバッヂ、ニーラバー用フック、エアポンプブラケット

'
60010205(年式・フレーム番号)〜
CB923901C (17500-205-030) CR71キャップ、セパレーター(インタンクブリーザー廃止)

‘61?????? (年式・フレーム番号)〜
CB923901D (17500-205-040) スチール製タンク ( 同年中にバッヂ表記が「Benly」から「Honda Benly 125」に)

‘62
2101002(年式・フレーム番号)〜
CB923901E (17500-205-050) バヨネットキャップ

 タンクは設変記号Aから市販車用がスタートしています。これはシリンダーヘッドなどと同じで市販に至るまでに既に設計の変更が有ったということでしょう。試作機の左
画像でインタンクブリーザーの「盲腸」が見えないものが有りますので或いはこれの装備で
Aとなったものが市販最初期に使用されたのではないかと思われます。

'60年のインタンクブリーザー廃止より前、'59年の半ばと言って全生産の極めて早い段階でタンクは左右面に60mmΦの凹部とM3の鋳込み雌ねじのプラスチックバッジ取付
け部、ゴム糊での貼り付けをやめニーラバー側共々フックを設けまた右下にエアポンプを止めておくブラケットを設ける大改造設変の行われた
Bバージョンになっています。
 
インタンクブリーザー取りやめの設変Cの後'61年中にDバージョンになります。
英国のメンバーはこの設変Dがタンク素材の『スチール化』とみています。
Dバージョンの出てくる詳細のフレームナンバーが示されたパーツリストはこれまで見たことが有りません。メンバーのどなたかご存知の方はいらっしゃいませんか?
素材が変更になっても周辺パーツは互換性が有りますので特に注意の必要がなく何の表示もされなかったのかもしれません。

 タンクのスチール化に伴いもはやデリケートなベークキャップを使う必要もありませんので'62年式の初期に一般車と同じC72番号のバヨネットキャップが使われるEバー
ジョンのタンクになります。
     

 最終設変が'62年というと足掛け6年の生産期間でその半ばまでにこの5変種が出てきたように思われますが年式でなく数量で言うと全生産数の1/4くらいまでの間にこれらす
べての設変は実施されています。それほど
'62から’64年までの生産比率が高く3/4は最終バージョンEのスチール製バヨネットタンク仕様と言えます。初期のねじ込み式キャ
ップタンクは古臭いですが特にそのアルミ仕様はいかにもレース感に溢れていて魅力的です。
 

現車、現品の確認や掲載の画像について多くの先輩やメンバーさんのご協力を頂けましたこと感謝いたします。
しかしながら今回もまたまた推定の域を出ないまとめの報告となってしまいました。
設変時期やその内容についてのより正しい情報をメンバー皆様から頂けますようお願い致します。

2020.09.25K

限られた資料を基にした推定部分の多いページとなっておりました。メンバーの9262さんのおかげでそのベントチューブの行先についてほぼ正しく纏め直しができました。
引き続き皆様からのご指摘と発見事実の投稿をお願い致します。
2020.10.10K
2021.09.21


次回は変更して『'60年(後期)型


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『タンクブリーザーの変遷』


タンクモデル車両:SQ4さん提供
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